ユーザーの心を操るUX設計プロセス。ペルソナ構築からカスタマージャーニー、そしてUIへの落とし込み方

ユーザーの心を操るUX設計プロセス。ペルソナ構築からカスタマージャーニー、そしてUIへの落とし込み方

売れないWebサイトは、ただの「高価なデジタルポスター」である

毎日、星の数ほどのWebサイトが生まれ、そして誰にも見られずに死んでいきます。 アニメーションが滑らかで、Pexelsで見つけたようなシネマティックな画像を使い、タイポグラフィも完璧。 同業者からは「かっこいいサイトだね」と褒められる。

……でも、全く商品が売れない。問い合わせが一件も来ない。

なぜでしょうか? それは、デザイナーが「Attention(注意を引く)」「Interest(興味を持たせる)」のUIしか作っておらず、

その後の「Search(検索・比較)」「Action(行動)」「Share(共有)」というUX(体験のレール)が断絶しているからです。

デザインに特化した人間(ビジュアルデザイナー)は、往々にして「パッと見の美しさ」に全リソースを注ぎます。しかし、あなたがもし上流工程(ディレクターやUXデザイナー)を目指すのであれば、ユーザーがサイトを訪れる「前」から、商品を買った「後」までの全体像を俯瞰しなければなりません。

そのために必須となるのが、マーケティングフレームワークとデザインの融合です。


UXを設計する際、ユーザーがどのような心理プロセスを経て行動(購入や問い合わせ)に至るのかをモデル化した枠組みが必要です。 今回は、インターネット普及後の消費行動モデルとして最も有名な「AISAS(アイサス)」(※電通が提唱した概念)を用います。

  • A(Attention – 認知): サービスを知る(SNS、広告、検索など)
  • I(Interest – 関心): 「お、いいな」と興味を持つ
  • S(Search – 検索): Googleで詳細や評判を調べる(SEOの主戦場)
  • A(Action – 行動): サイトに訪れ、購入・問い合わせをする(UIの主戦場)
  • S(Share – 共有): 体験をSNSやレビューで第三者に共有する

通常のWebデザイナーは「AとI」のビジュアル作りに注力します。 しかし、UXデザイナーは「S(検索)」でどう見つけさせ、「A(行動)」でいかに迷わせず、「S(共有)」したくなる感動を与えるか、このすべてを設計します。

このAISASのレールを敷くための具体的なプロセスが、「ペルソナ構築」と「カスタマージャーニーマップ」です。


UX設計の第一歩は、「誰に届けるのか(ペルソナ)」を異常な解像度で定義することです。 初心者がよくやる間違いが、以下のような浅いペルソナです。

× 悪い例:「都内に住む30代の男性経営者。Web集客に悩んでいる」

これはペルソナではなく、ただの「ターゲット層(デモグラフィック)」です。これではUIに落とし込めません。 本当に使えるペルソナは、「血の通った一人の人間」として、その人の痛み(ペイン)や日常の行動まで言語化します。

〇 良い例(ペルソナ:佐藤さん・35歳): 地方都市で小さなカフェを経営して3年目。最近、近所に大手チェーン店ができ、客足が3割減って焦っている。 毎日深夜2時まで店に残り、スマホで「カフェ 集客 インスタ」「ホームページ 制作 費用」と検索しているが、専門用語(SEOやコンバージョン)がわからず、どの業者を信じていいか疑心暗鬼になっている。 一番の恐怖は「高いお金を払ってWebサイトを作ったのに、誰にも見られないこと」。

いかがでしょうか? ここまで深掘りすると、佐藤さんに対する「最適なUX(体験)」「最適なUI(画面)」が自ずと見えてきます。

  • UXの方向性: 専門用語でマウントを取らず、寄り添い、安心感を与える体験。
  • UIの方向性: ギラギラしたIT企業風のデザインではなく、温かみのある配色。難解な英語メニュー(Solutionなど)は避け、直感的な日本語(私たちができること)を採用する。

ペルソナ構築とは、デザインの「正解の基準」を作る作業なのです。


ペルソナ(佐藤さん)が決まったら、彼がAISASのプロセスをどう進むのか、時系列で地図(マップ)にします。これが「カスタマージャーニーマップ」です。

各フェーズにおける佐藤さんの「行動」「思考」「感情の起伏」、そして私たちが提供すべき「施策(タッチポイント)」を埋めていきます。

フェーズ1:Attention(認知)& Interest(関心)

  • 行動: 深夜、Instagramで「売上の上がるホームページの作り方」という当社の投稿を見る。
  • 感情(ややポジティブ): 「おっ、今の自分に必要な情報かも。でも本当に効果あるのかな?」
  • UX施策: 専門用語を使わない図解投稿で目を引く。プロフィールのリンクへ誘導する。

フェーズ2:Search(検索)

  • 行動: 後日、改めてGoogleで「地域名 + ホームページ制作 + 集客」で検索し、当社のサイトを見つける。(SEO対策の成果)
  • 感情(不安): 「検索上位に出たけど、騙されないかな。料金はいくらだろう」
  • UX施策: 検索意図(集客したい・騙されたくない)に完璧に答える記事やLPを用意する。

フェーズ3:Action(行動)

  • 行動: サイトを読み進め、納得して「無料相談」のボタンを押す。フォームに入力する。
  • 感情(期待と面倒くささ): 「頼んでみよう!……でも、入力項目が多くて面倒だな」
  • UX施策: フォームの入力項目を極限まで減らし、心理的ハードルを下げる。

フェーズ4:Share(共有)

  • 行動: 無料相談が想像以上に丁寧で感動し、X(旧Twitter)で「すごく親身に相談に乗ってくれる制作会社を見つけた!」と呟く。
  • 感情(感動): 「自分事のように考えてくれた。誰かに教えたい」
  • UX施策: 相談後に、役立つPDF資料を無料でプレゼントし、「期待値を超える体験」を提供する。

このように、ユーザーの感情が「不安」に落ち込むポイント(Search時やAction直前)を事前に予測し、そこを先回りして「安心」へと引き上げる設計図を作るのが、UXデザイナーの腕の見せ所です。


さあ、ここからが本番です。 作ったカスタマージャーニーマップを、実際のWebサイトの「UI(画面設計)」へと翻訳していきます。 上流工程の思考が、どうピクセルに変換されるのかをご覧ください。

1. Search(検索)フェーズのUI設計

佐藤さんは、Google検索から「不安」を抱えてランディングページ(LP)にやってきます。 ここで「オシャレすぎるだけの抽象的なファーストビュー」を見せたら、彼は3秒で離脱します。

  • UIへの落とし込み:
    • ヘッダー(FV): 左上にロゴ、右上に前回紹介した配色の黄金比を活用した、コントラストの高い「無料相談」ボタン(CTA)を配置。
    • キャッチコピー: 「Webデザイン×集客」という、彼の検索意図(Search)に直結するキーワードを最も大きなフォント(H1)で配置。
    • 権威性の提示: FVのすぐ下に「飲食店の集客成功事例」や「お客様の声」のセクションを配置。これにより、佐藤さんの「騙されないか」という不安(Pain)を視覚的・即座に払拭します。

2. Action(行動)フェーズのUI設計(EFOの徹底)

佐藤さんが「よし、問い合わせよう」と思った瞬間(Action)のUIは、「極限の引き算」が求められます。

  • UIへの落とし込み(入力フォーム):
    • フォームの画面では、上部のグローバルナビゲーションやサイドバーをすべて消し去ります。これは「他のページへの目移り(離脱)」を防ぐためです。
    • 入力項目は「会社名・お名前・メールアドレス・相談内容」の4つのみに絞る。
    • ボタンのマイクロコピー(小さなテキスト)を工夫する。「送信する」という事務的な言葉ではなく、「無料で集客の相談をする(1分で完了)」という、彼が得られるメリットと手軽さをUI上のテキストとして実装します。

3. Share(共有)フェーズのUI設計

佐藤さんが問い合わせを完了した直後の「サンクスページ(完了画面)」。通常のサイトは「お問い合わせありがとうございました。担当者からの連絡をお待ちください」というテキストだけで終わります。 しかし、UXを重視するなら、ここは「次の行動(Shareなど)」を促す最大のチャンスです。

  • UIへの落とし込み:
    • サンクスページに「お返事をお待ちの間に、こちらの『カフェ集客成功の裏側レポート』をぜひお読みください」というPDFのダウンロードリンク(UI)を配置。
    • 記事の下に、押しやすいSNSのシェアボタンを配置。
    • 期待値を超える「おもてなしのUI」を挟むことで、ユーザーの感情を最高潮に持っていき、Shareへと誘導します。


いかがだったでしょうか。 UI(ボタンの配置や色、文字の大きさ)は、決して「デザイナーのセンス」で決まるものではありません。

「ペルソナの不安を消すため(UX)に、ここに実績のバナー(UI)を置く」 「購入の迷いを断ち切るため(UX)に、ボタンのテキスト(UI)を変える」

すべてはカスタマージャーニーという論理的なレールの上に成り立っています。 これが、デザインがビジネス(売上)に直結するメカニズムです。

しかし、ここで忘れてはいけないのが、「アート(人間への深い洞察)」の視点です。

どれだけAISASやジャーニーマップといったフレームワークを使いこなしても、その中心にいる「佐藤さん」という人間の痛みに心から共感し、「彼を救いたい」という血の通った思い(アート思考)がなければ、出来上がるUIはどこか冷たく、結局人の心は動きません。

  • ビジネス: 売上を上げるための戦略(AISAS、SEO)
  • アート: ユーザーの痛みに寄り添う共感力(ペルソナへの愛)
  • デザイン: その両者を、使いやすい画面へと翻訳する技術(UI)

この3つを高い次元で統合できる人間こそが、これからのAI時代に生き残る、真のUXデザイナーであり、最強のビジネスパートナーです。


綺麗なバナーを作り、美しい配色を考えるのは、素晴らしい技術です。 しかし、AIが数秒でプロ級の見た目を生成できるようになった現在、ビジュアルを作るだけの「装飾者(デコレーター)」の価値は下がり続けています。

もしあなたが、現状のスキルや単価に頭打ちを感じているなら。 今日から、IllustratorやFigmaを開く前に、ノートに「ペルソナ」と「カスタマージャーニーマップ」を手書きで殴り書いてみてください。

「このユーザーは、どこから来て、何を不安に思い、どうなったら嬉しいのか?」

見えない「体験(UX)」を設計し、それを論理的に「画面(UI)」に落とし込む。 この一連のプロセスを息をするように行えるようになった時、あなたの作るデザインは、単なる「綺麗な絵」から、ビジネスを動かす「強力な武器」へと進化しているはずです。

泥臭く、しかし最高にクリエイティブな「UX設計」の世界。

次回のプロジェクトで、ぜひこの思考プロセスを試してみてくださいね!


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