朝起きて、スマホを見た瞬間に「敗北」する私たち
朝、目が覚めて一番に何をしますか? 多くのクリエイターが、無意識にSNSのアイコンをタップしているはずです。
X(旧Twitter)、Instagram、TikTok。 そこには、自分より遥かに若い「神絵師」が描いた、信じられないほど美しいイラストが流れてきます。 同世代のデザイナーが手がけた、大手企業の華やかなリブランディング事例が流れてきます。 「#初投稿」というタグがついた動画が、一夜にして100万回再生され、称賛のコメントで埋め尽くされています。
その瞬間、布団の中でズシッと重たいものが胸に乗っかるのを感じませんか?
「自分には才能がない」 「あんなふうになれるわけがない」 「昨日必死に描いた自分の作品が、ゴミのように思えてきた」
分かります。痛いほど分かります。 私もかつては、SNSを開くたびに吐き気を催し、それでも指を止められない中毒者でした。
今日は、スキルやテクニックの話は一切しません。 クリエイターがこの過酷なSNS時代を生き延びるための、最も重要なスキル。「心の守り方」と「戦う場所の変え方」についてお話しします。
私のTikTokフォロワー数は現在3万人を超えましたが、そこに至るまでの道は、決して綺麗なものではありませんでした。 泥臭く、傷だらけになりながら見つけた「処方箋」を、今まさに画面の向こうで膝を抱えているあなたに処方します。
目次
アルゴリズムが見せる「0.1%の嘘」
まず、あなたの心が弱いから落ち込むのではありません。 SNSというシステム自体が、あなたを落ち込ませるように設計されているという事実を、冷静に理解しましょう。
私たちは「奇跡」の切り抜きを見せられている
SNSのアルゴリズム(AI)の目的は一つ。「ユーザーを1秒でも長くアプリに留まらせること」です。
そのために、AIは何を表示するか?
世界中の何億という投稿の中から、最も反応が良く、最も美しく、最も感情を揺さぶる「上位0.1%のコンテンツ」だけを選りすぐって、あなたのタイムライン(おすすめ)に流し込みます。
つまり、あなたが毎日見ているのは「世界の平均」ではありません。
「70億人の中のトップアスリートによる、人生最高の瞬間のハイライト集」です。
自分の「寝起きのボサボサ頭のような制作過程」と、他人の「レッドカーペットを歩くような完成品」を比べてはいけません。 それは、近所の公園でキャッチボールをしている少年が、テレビの中の大谷翔平を見て「俺はなんてダメなんだ」と絶望するのと同じくらい、ナンセンスな比較です。

私の実録。フォロワー3000人の「地獄」と、1万人の「悟り」
偉そうなことを言っていますが、私もかつては数字の奴隷でした。
ここで少し、私の恥ずかしくもリアルな体験談をお話しさせてください。
無邪気だった「初期」の喜び
TikTokを始めた当初、私はただ描くのが楽しくて、夢中で毎日投稿していました。
最初は誰も見てくれません。それでも、再生数が「10回」を超えただけで嬉しかった。
フォロワーが「50人」になった時は、スマホの前でガッツポーズをしました。
「すごいですね!」「この色使い好きです」というコメントが3件ついただけで、その日は一日中幸せでした。
「ああ、見てくれる人がいるんだ」
その純粋な喜びだけが、私の原動力でした。
3000人の壁と、アンチコメントの襲来
潮目が変わったのは、フォロワーが3000人を超えたあたりからです。
それまで好意的なコメントばかりだったのが、急に雲行きが怪しくなりました。
「下手くそ」
「これの何がいいの?」
「パクリ乙」
心無い言葉、いわゆる「アンチコメント」が目立ち始めました。
たった1件の批判で、99件の称賛がかき消されます。通知欄を見るのが怖くなりました。
「私が悪いのかな」「もっと上手くならないと」と自分を追い込み、ついにメンタルを病んで、投稿をストップしてしまいました。
ペンを持つ手が震えて、何も描けなくなったのです。
1万人を超えて見えた「ビジネスの真実」
しかし、しばらくして復帰し、なんとかフォロワーが1万人を超え、企業案件を受けたり、収益が出るようになった頃。
不思議なことに、私のメンタルは回復していました。アンチコメントがなくなったからではありません。むしろ増えました。
変わったのは、私の「捉え方」です。
ある日、気づいたのです。
「アンチコメントがつくと、再生数が伸びる」ということに。
SNSのアルゴリズムは、感情を持ちません。「コメント欄で議論(喧嘩)が起きている」=「ユーザーが熱心に参加している優良コンテンツ」と判断し、さらに拡散させます。
皮肉なことに、アンチたちは私の動画を叩くことで、私の動画の評価を高め、私の収益に貢献していたのです。
「これは有名税だ。いや、むしろ養分だ」
そう割り切れた瞬間、私は自由になりました。
全体の10%のアンチは、人気が出れば必ず湧く「自然現象」です。雨が降るのと同じです。
雨に対して「なんで降るんだ!」と怒っても仕方がない。傘をさせばいいだけのことでした。

ビジネス思考のインフルエンサーという「怪物」たち
私が1万人の壁を超えて見た景色は、ある意味でディストピアでした。
そこには、かつての私のように純粋に創作を楽しむ人たちとは別に、「完全にビジネスとしてSNSをハックする人々」が蔓延していたからです。
炎上すら「燃料」にする戦略家
彼らは、意図的に「ツッコミどころ」を作ります。
わざと少し間違った知識を披露したり、過激な逆張り意見を言ったりして、コメント欄を荒れさせます。
なぜなら、それがアルゴリズムに評価され、バズり、最終的に広告収入やアフィリエイト報酬に繋がることを知っているからです。
もし今、私が記憶を持ったままフォロワー0人から再スタートするとしたら?
正直に言えば、昔のような「一喜一憂」はしないでしょう。
最初から「どうすれば3万人、10万人いくか」を逆算し、トレンドを分析し、台本を作り込みます。完全に「ビジネス思考」で運用します。
しかし、ここで問いたいのです。 私たちは、本当に「それ」になりたいのでしょうか?

勝ち筋は「アート思考」にあり。短期記憶に残るな、魂に残れ
ビジネス思考のインフルエンサーたちが作る動画は、確かに伸びます。100万回再生されます。 でも、あなたの心に深く残っている動画が、その中にいくつありますか?
おそらく、ほとんどないはずです。 彼らのコンテンツは「短期記憶」しか刺激しません。 「へー、すごい」「はは、面白い」で終わり。スワイプされ、5秒後には忘れ去られます。 彼らにファンはいません。いるのは「暇つぶしの視聴者」だけです。
ビジネス戦略では敵わない。だが……
私たちクリエイターが、彼らと同じ土俵(数値の最大化)で戦っても勝てません。彼らはプロのマーケターであり、心を捨てて数字を追えるからです。
しかし、私たちには「アート思考」という最強の武器があります。
それは、「数値」ではなく「意味」を設計する力です。
私は、3万人のフォロワーに向けた動画を作る時も、心の中では「たった一人」に向けて作っています。 例えば、仕事で失敗して落ち込んでいる過去の自分へ。 あるいは、誰にも言えないコンプレックスを抱えている名前も知らない誰かへ。
「私はなぜ、これを作るのか?」 「これを見た人に、どんな感情になってほしいのか?」
この「クリエイティブの裏設定(バックストーリー)」こそが、アートの本質です。
100万人に消費されるよりも、たった一人の人間が、その作品を見て涙を流し、「救われました」と言ってくれる。
そして、その一人が本当の意味での「ファン」になり、一生あなたを応援してくれる。
ビジネス思考では、この「深い繋がり」は絶対に作れません。 トップ0.1%の数字を目指す必要はありません。それはレッドオーシャンです。 あなたが目指すべきは、「誰かの人生の栞(しおり)になるような作品」を残すことです。

今日からできる「心の処方箋」
精神論だけではまた心が折れてしまうかもしれません。
最後に、私が実践している具体的な「メンタル防衛テクニック」を2つ紹介します。
「制作日記」で過去の自分とだけ戦う
他人との比較をやめる一番の方法は、比較対象を「過去の自分」に固定することです。 私は毎日、簡単な制作日記をつけています。
- 「今日は線の強弱が上手くつけられた」
- 「1ヶ月前の絵と比べたら、配色のバランスが良くなっている」
1ヶ月前、半年前の自分と比べて、1mmでも前に進んでいれば、それは大勝利です。 SNSのタイムラインは見なくていい。見るべきは、自分のクロッキー帳の1ページ目と最新ページの違いだけです。
2. 「スマホ断ち」という物理防御
心がザワついたら、物理的にSNSから距離を置いてください。 アプリをフォルダの奥深くに隠すか、思い切ってログアウトする。 そして、美術館に行ったり、映画を見たり、ただ散歩をしたりして、「オフラインの感覚」を取り戻してください。
画面の中の数字が全てではありません。 風の冷たさや、コーヒーの香りを感じる現実世界こそが、あなたの創作の源泉(ソース)です。 ソースが枯渇しないように、定期的にデジタルデトックスを行うことは、クリエイターの義務です。

あなたの「痛み」は、いつか誰かの「救い」になる
今、SNSを見て落ち込んでいるということは、あなたが「本気」だという証拠です。
どうでもいいことなら、落ち込みもしません。
「もっと良いものを作りたい」「誰かに届けたい」という渇望があるから、苦しいのです。
その苦しみを知っているあなただからこそ、作れるものがあります。
順風満帆な天才には描けない、痛みを知る人のための優しさや、泥臭い強さが、あなたの作品には宿るはずです。
ビジネス思考の怪物が跋扈(ばっこ)するこの世界で、どうか「アート思考」の灯を消さないでください。
数値はただの記号です。でも、あなたが込めた想いは、確実に誰かの心臓に届きます。
私も、今日もまた、アンチコメントに舌打ちしながら、それでも懲りずにペンを握ります。
一緒に、泥臭く描き続けましょう。

【この記事を書いた人 / WRITER】
Amata Craft(あまたくらふと)
イラストレーター / デザイナー / アートディレクター
美大受験の失敗、仮面浪人、そしてSNSでのメンタル崩壊……。数々の「挫折」を養分に変えて生きるクリエイター。
現在はTikTok(フォロワー3万人)を中心に、イラスト制作のプロセスや、デザイナーとしての生存戦略を発信中。「天才ではない凡人が、どうやってアートの世界で食っていくか?」をテーマに、綺麗な上澄みだけでなく、泥臭い試行錯誤のリアルを公開しています。
🖌️ Gallery:苦しみから生まれた「足跡」たち
言葉だけでなく、私の作品も少しだけ紹介させてください。 記事でも書いた通り、これらは全て「天才のひらめき」ではなく、日々の「実験と失敗」の積み重ねから生まれたものです。
🔗 Follow Me:制作の裏側と「思考」を覗く
SNSでは、ブログには書ききれない「リアルタイムの制作風景」や「瞬発的な気づき」を発信しています。 もしよろしければ、孤独な創作活動の伴走者としてフォローしていただけると嬉しいです。
Tiktok:あまたくらふと amatacraft
メインの活動場所。3万人のフォロワーと共に、日々の制作プロセスや、ちょっとしたテクニックをショート動画で公開中。「映え」よりも「リアル」を重視しています。
Youtube:あまたくらふと amatacraft
TikTokでは語り尽くせないデザインの理論や、長尺のメイキング解説、作業用BGM代わりに。
X(旧Twitter):amatacraft-あまたくらふと- @amata_craft
私の「よそ行き」の顔です(笑)。完成した作品を高画質でアーカイブしています。ポートフォリオ代わりにどうぞ。
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