【必修科目】「デザイン思考」はデザイナーのものではない。全ビジネスパーソンが習得すべき”不確実性”の歩き方

【必修科目】「デザイン思考」はデザイナーのものではない。全ビジネスパーソンが習得すべき”不確実性”の歩き方

「デザイン思考(Design Thinking)」 この言葉を聞いて、あなたはまず何を思い浮かべますか?

「おしゃれな製品を作ること?」 「付箋をペタペタ貼るワークショップ?」 「自分は絵も描けないし、デザイナーじゃないから関係ないかな」

もしそう思っているなら、この記事はあなたのためのものです。

はっきり言います。デザイン思考は、「デザイン」の話ではありません。 これは、MBA(経営学修士)でも教えられる「ビジネスの生存戦略」であり、先が見えない現代社会における「問題解決のOS(オペレーティングシステム)」です。

今日は、なぜ今、GAFAをはじめとする世界的企業がこぞってこの思考法を取り入れるのか。そして、デザイナーではない私たちが、明日からのメール1本、会議1回をどう変えれば「デザイン思考」を実践できるのか。

その本質を、専門用語を極力使わずに紐解いていきます。


まず、誤解を解くところから始めましょう。

多くの人が考える「デザイン」は、色や形を整える「装飾(Decoration)」のことです。

しかし、デザイン思考における「デザイン」の定義は違います。Appleの創始者、スティーブ・ジョブズの言葉が最も核心を突いています。

“Design is not just what it looks like and feels like. Design is how it works.” (デザインとは、単にどう見えるか、どう感じるかということではない。どう機能するかということだ。)

つまり、デザイン思考とは、 「かっこいいものを作る方法」ではなく、 「ユーザー(人間)が抱える本当の課題を見つけ出し、それを解決する仕組みを作ること」なのです。

こう考えると、営業も、人事も、エンジニアも、全ての仕事が「デザイン」の対象であることがわかります。なぜなら、全ての仕事には「相手(ユーザー)」がいて、「解決すべき課題」があるからです。


では、具体的にどう頭を使えばいいのか。 デザイン思考の本場、スタンフォード大学d.schoolが提唱する「5つのプロセス」が世界的なスタンダードです。

  1. Empathize(共感): ユーザーの立場になりきる
  2. Define(定義): 本質的な問題を見つける
  3. Ideate(創造): 解決策を大量に出す
  4. Prototype(試作): 形にして試す
  5. Test(テスト): ユーザーの反応を見る

この5つの中で、特に日本人が苦手とし、かつ最も重要なのが「1. 共感」「4. 試作」です。

ロジカルシンキングの限界を超える「共感」

従来のビジネス(ロジカルシンキング)は、「売上が落ちた→価格が高いからだ→安くしよう」と、数字やデータから論理的に正解を導き出そうとします。

しかし、デザイン思考は違います。 「なぜ買わないのか?」を知るために、現場に行き、ユーザーを観察し、話を聞きます。すると、「価格が高い」のではなく、「パッケージが開けにくくてイライラするから買わなくなった」というデータには表れない感情(インサイト)が見えてくることがあります。

この「人間臭い感情」に寄り添う(共感する)ことからスタートするのが、デザイン思考の最大の特徴です。


「昔ながらのやり方じゃダメなの?」 そう思うかもしれません。しかし、今は「VUCA(ブーカ)」と呼ばれる、変動が激しく正解のない時代です。

1. 「正解」が存在しないから

高度経済成長期のように「良い冷蔵庫を作れば売れる」時代は終わりました。 今は「何が欲しいか」をユーザー自身もわかっていません。そんな時代に、会議室で偉い人たちが「これが正解だ」と決めた計画書通りに進めるのは、目隠しをして運転するようなものです。

2. 「失敗」のコストを下げるため(Fail Fast)

デザイン思考の肝は「プロトタイプ(試作)」です。 完璧な製品を作ってからリリースして失敗すると、数億円の損失になります。 しかし、紙とペンで書いたラフスケッチの段階でユーザーに見せ、「なんか違うね」と言われても、損失は「紙代と10分の時間」だけです。

「早く、安く、賢く失敗する(Fail Fast)」 このマインドセットこそが、変化の速い現代ビジネスにおける最強のリスクヘッジなのです。


「よし、明日から全社でワークショップだ!」と意気込む必要はありません。 個人のデスクワークレベルで、デザイン思考はすぐに始められます。

1. 「なぜ?」ではなく「どう感じる?」と聞いてみる

部下やクライアントとの会話で、論理的な理由だけでなく「感情」にフォーカスしてみてください。「使いにくいと感じる瞬間はいつ?」「これを使ったとき、どんな気分になりたい?」 その答えの中に、イノベーションの種(真の課題)が眠っています。

2. パワポを作る前に「手書き」で見せる

完璧な資料を作ってから上司に見せて「全然違う」と言われて絶望したことはありませんか? これからは、着手してすぐに手書きのメモやホワイトボードの段階で「こんな方向性で合ってますか?」と見せ(テスト)に行きましょう。これが立派な「プロトタイプ」の実践です。

3. 「Yes, but」を「Yes, and」に変える

会議で誰かのアイデアに「でもさぁ(But)」と否定から入るのをやめましょう。 「いいね、さらにこうすると(And)もっと面白くなる」と乗っかる。この肯定的な空気が、ロジックの壁を突破するアイデアを生みます。


最後に。 今、AIがものすごいスピードで進化しています。データを分析し、最適解を出す能力で、人間はAIに勝てません。

しかし、AIにはできなくて、人間にしかできないことがあります。 それは、「他者の痛みに共感すること」と「問い(課題)そのものを発見すること」です。

「デザイン思考」とは、難解なフレームワークではありません。 「誰かのために、何かを良くしたい」という、極めて人間らしい思いやりの心を、形にするための作法です。

デザイナーかどうかなんて関係ありません。 誰かの悩みに気づき、それを解決しようと動いた瞬間、あなたはもう「デザイナー」なのです。