【脱・感覚】なぜ、そのバナーは「素人っぽい」のか?数百年変わらない名画の「視線誘導」と3つの構図マジック

【脱・感覚】なぜ、そのバナーは「素人っぽい」のか?数百年変わらない名画の「視線誘導」と3つの構図マジック

正直に告白します。 デザイナーとして仕事を始めたばかりの頃、私はモニターの前で幾度となく頭を抱えていました。

「素材はいい。フォントも悪くない。配色のルールも守っている。……なのに、なぜか絶望的にダサい

皆さんも、こんな経験はありませんか? 要素を置けば置くほど画面が散らかり、どこを見ていいのかわからない「迷子デザイン」になってしまう。先輩デザイナーの作品と並べると、自分の作ったものがまるで「空気が抜けた風船」のように頼りなく見える。

その原因、実は「センスがないから」ではありません。 人間の目が、生理的に「どこを見て、どう動くか」という『視線の設計図』を持っていないことが原因です。

今回は、最新のデザイントレンドの話は一切しません。 その代わり、100年後も200年後も古びることのない、もっと本質的な話をします。フェルメール、葛飾北斎、レンブラント……彼ら巨匠たちが、筆一本で人々の目を釘付けにしてきた「魔法のタネ明かし」です。

これを読み終えた後、あなたはきっと、自分の作りかけのデザインをもう一度開きたくてウズウズしているはずです。


美術館に行った時のことを思い出してみてください。 何百年も前に描かれた油絵の前で、言葉もわからず、ただ呆然と立ち尽くしてしまった経験はありませんか?

不思議だと思いませんか。 彼らはPhotoshopもIllustratorも持っていません。Undo(取り消し)もできないアナログな環境で描いています。それなのに、現代の私たちが最新ツールを使って作る画像よりも、圧倒的に強い「引力」を持っています。

その正体は、「脳へのハッキング」です。

名画と呼ばれる作品はすべて、「人間が心地よいと感じるバランス」「無意識に見てしまう視線のルート」が、数学的かつ心理学的に完璧に計算されています。

Webデザインの世界では、UIやトレンドが数年単位で入れ替わります。 しかし、これを見る「人間の脳」の構造は、ここ数千年変わっていません。だからこそ、アートの歴史という「数百年分のA/Bテストを勝ち抜いたデータ」をカンニングしない手はないのです。

ここからは、明日からのWeb制作・バナー制作に即・実装できる「3つの構図マジック」を深掘りしていきましょう。


画像出典:Wikimedia Commons
画家:葛飾北斎Katsushika Hokusai
作品名:富嶽三十六景 神奈川沖浪裏

カメラのグリッド表示でおなじみの「三分割法(Rule of Thirds)」。 画面を縦横3つに分割し、その交点に主役を置く……というのは基本中の基本ですが、もう少し深く見てみましょう。

なぜ、真ん中(日の丸構図)じゃダメなのか? それは、「動き」が死ぬからです。

『神奈川沖浪裏』が今も世界でバズる理由

葛飾北斎の『富嶽三十六景 神奈川沖浪裏』を思い浮かべてください。 あの絵の主役である「富士山」は、画面のど真ん中にはありません。右下の交点付近にひっそりと鎮座し、左側からは巨大な波が覆いかぶさろうとしています。

もし富士山がど真ん中にあったらどうでしょう? あの圧倒的な「波の迫力」と「動じない富士山」の対比は生まれず、ただの記念写真のような絵になっていたはずです。あえて中心を外し、空間(余白)を作ることで、見る人の脳内で「波がこれから崩れ落ちる動き」を補完させているのです。

Webデザインへの応用:FV(ファーストビュー)の「抜け感」

これをWebのヒーローイメージ(トップ画像)に応用しましょう。

【初心者がやりがちな例】

【視線誘導できている例】

初心者がやりがちなのが、キャッチコピーと写真をすべて中央揃えにしてしまうこと。これだと、視線が中央で止まり、その下へスクロールしようという「運動エネルギー」が生まれません。

  • 写真を右の交点ラインに配置する
  • キャッチコピーを左の交点ラインに配置する

こうして左右に重心を分散させるだけで、画面に「風」が通ります。 「余白」とは、単に何も置いていない場所(空き地)ではありません。視線を遊ばせ、次の情報へと誘導するための「滑走路」なのです。



画像出典:Wikimedia Commons
画家:レンブラント・ファン・レインRembrandt van Rijn
作品名:夜警

「ユーザーがどこを見ていいかわからないと言われる」 そんな悩みを持つあなたに授けたいのが、バロック期の巨匠・レンブラントのテクニックです。

彼は「光の魔術師」と呼ばれました。彼の絵(『夜警』など)を見ると、画面の大部分は驚くほど暗い闇に包まれています。しかし、だからこそ、一筋の光が当たった人物の表情が、強烈なドラマとして目に焼き付きます。

人間は本能的に、「暗い場所から明るい場所へ」視線を動かす習性があります。 これをデザインに応用するのが「トンネル効果」や「ビネット(周辺減光)」です。

情報は「足し算」ではなく「引き算」で作る

Webデザインにおいて、私たちはつい「あれも見てほしい、これも重要だ」と情報を詰め込み、画面全体を明るく、派手にしてしまいがちです。 しかし、全てが強調されている状態とは、「何も強調されていない」のと同じです。

Webデザインへの応用:CTAボタンを「主役」にする

【悪い例】

【良い例】

ランディングページ(LP)のコンバージョンエリア(申し込みボタン周辺)で、この「レンブラントの照明」を使ってみてください。

  • 背景画像の彩度を少し落とす、あるいは明度を下げる。
  • ボタンと、そのボタンを押すメリット(コピー)部分だけを、明るく、コントラスト高く保つ。

まるで暗い舞台でスポットライトを浴びる主役のように、ユーザーの視線は強制的にそこへ吸い寄せられます。「見てください」とお願いするのではなく、「そこしか見えない」状態を作り出す。 これがプロの視線誘導です。


画像出典:Wikimedia Commons
画家:レオナルド・ダ・ヴィンチ(Leonardo da Vinci
作品名:岩窟の聖母

最後は、最も堅実で、かつ強力な構図です。 レオナルド・ダ・ヴィンチの『モナ・リザ』や『岩窟の聖母』を見てください。人物の配置が、頭頂部を頂点として、底辺に向かって広がる「三角形」に収まっていることに気づくはずです。

三角形という形は、重力的・物理的に最も安定しています。ピラミッドが崩れないのと同じです。 この構図を人間が見ると、無意識下で「安心感」「威厳」「不変」といった印象を抱きます。

クリエイティブな遊び心 vs 絶対的な信頼感

近年のWebトレンドでは、要素をずらしたり崩したりする「ブロークングリッド」も人気ですが、これは「不安定さ」を利用した高度なテクニックです。

逆に、企業のコーポレートサイトや、銀行、医療、士業といった「信頼」が何より重要なジャンルでは、この「三角形構図」が絶大な威力を発揮します。

Webデザインへの応用:情報のピラミッド

【悪い例】

【良い例】

例えば、チーム紹介やサービスの特徴を並べる時。 横一列に並べるのも良いですが、重要なものを頂点に配置し、詳細情報をその下に広げていく「ピラミッド型」のレイアウトを意識してみてください。

  • 頂点: 最も伝えたいメッセージ(または代表者)
  • 底辺: それを支える証拠、実績、スタッフ

この構造にするだけで、デザインに「どっしりとした重み」が出ます。 「このサービスなら任せても大丈夫そうだ」という説得力は、言葉だけでなく、この幾何学的な安定感から生まれていることが多いのです。


AIが数秒で画像を生成し、ノーコードツールで誰でもWebサイトが作れる時代になりました。 「デザイナーの仕事はなくなるんじゃないか?」と不安になることもありますよね。

でも、私はこう思います。 ツールがどれだけ進化しても、それを見るのが「人間」である限り、心を動かすための「法則」はなくならないと。

私たちが相手にしているのは、スマホの画面の向こうにある、感情を持った生身の人間です。 だからこそ、何百年も前に同じ人間に向けて描かれた「アート」の中に、今の私たちが学ぶべきヒントが山のように埋まっています。

「センス」という曖昧な言葉に逃げないでください。 名画の構図は、先人たちが残してくれた「最強のカンニングペーパー」です。

さて、もし今度、あなたがデザインに行き詰まり、白いキャンバスの前で途方に暮れることがあったら。 Pinterestを開く前に、一度Google Arts & Cultureで、数百年生き残ってきた「先輩たち」の絵を覗いてみてください。

「おい、ここをもっと暗くしてみろよ」「主役を少しズラしてみな」 そんな巨匠たちの声が、聞こえてくるかもしれませんよ。